熊本大学大学院自然科学研究部博士前期課程2年(当時)の吉田大一大学院生、甲南大学理工学部の上田晴子教授、琉球大学工学部の國田樹准教授、熊本大学半導体?デジタル研究教育機構の戸田真志教授、同大学院先端科学研究部の檜垣匠教授からなる研究グループは、植物の枝の形がどのように作られ、維持されるのかを調べるため、独自の解析技術である植物の立体構造の時間変化を調べる「4次元表現型解析」を行いました。 |
<発表のポイント>
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植物の枝が上向きかつ安定した方向に伸びる仕組みに、ミオシンXIという細胞内のモータータンパク質が関与することを明らかにしました。
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植物の立体構造の時間変化を計測する「4次元表現型解析」により、正常な植物とミオシンXIのはたらきを欠いた変異体の側枝の形態を定量的に比較しました。
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本研究により、植物の枝の形づくりにおけるミオシンXIの新たな役割と、枝の成長方向を制御する仕組みの一端が明らかになりました。
<研究概要>
[背景]
植物の「かたち」は、光合成効率?種子散布?植物自身の力学的安定性などに影響する重要な形質であり、その制御機構の理解は基礎植物科学研究のみならず農学的な応用研究にとっても重要です。枝がどの方向にどれだけの角度で伸びるかについて、その仕組みを分子レベルで明らかにした研究は限られていました。近年、植物の立体構造のスキャニング技術が発展し、形の変化を定量的に捉えることが可能になってきました。本研究では、こうした技術を活用し、時間変化も含めた解析を通して、「枝の形はどのようにして作られ、維持されるのか?」という根本的な問いに迫りました。
[研究の内容と成果]
本研究では、ミオシンXIファミリーに属するタンパク質、MYOSIN XIfおよびXIkの植物の枝の形態形成における役割を明らかにすることを目的として、これらの遺伝子に変異をもつシロイヌナズナの変異体を用いた解析を行いました。研究チームは、立体構造を時間を追って解析する「4次元表現型解析」の技術を用いて、植物の側枝の成長と形態変化を詳細に追跡しました。
その結果、正常なシロイヌナズナの枝、時間とともに角度を調整し、根元と先端で曲がる「S字状」の形態を形成していることが明らかになりました。これは、重力に逆らうように枝を上方へ向けて安定させる成長戦略の一端であると考えられます。一方で、MYOSIN XIkの機能が欠損した変異体では、枝の曲がりが弱く、全体として下垂した直線的な枝形態を示しました。さらに、MYOSIN XIfとXIkの両方が欠損している二重変異体では、枝が直線的である一方で、成長方向が不規則に変化し、不安定な伸長が見られました(図)。
これらの解析から、MYOSIN XIkは枝を上向きに曲げる成長に、MYOSIN XIfとXIkはその成長方向を安定化させる過程に関与していることが明らかになり、植物の側枝がどのようにして“形”をつくり、維持しているのかという問いに対する新たな分子的知見が得られました。
[今後の展開]
本研究グループの独自技術である植物の4次元表現型解析は、植物のかたちの変化を精密に捉える新たな手法であり、ミオシンXIに限らず、他の因子の作用機構の解明にも応用可能です。また、枝の伸び方や成長方向を制御する技術の開発にもつながる可能性があり、農業や園芸分野における実用展開も期待されます。
<論文情報>
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論文名:Four-dimensional phenotyping revealed Arabidopsis MYOSIN XI-dependent establishment of branch morphology through upward- and stably-directed growth
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著者:Daichi Yoshida, Itsuki Kunita, Masashi Toda, Haruko Ueda, and Takumi Higaki*(責任著者)
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掲載誌:Quantitative Plant Biology
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DOI:10.1017/qpb.2025.10007